NPO法人 日本ヘアエピテーゼ協会 報道資料
「抗がん剤で全身の毛が抜けた」自らの体験をもとに驚くべきウィッグを作った女性
医療用ウィッグを進化させ、再現美容(がんになる前と同じ髪型に近づける技術)を推進している日本ヘアエピテーゼ協会。広報の河野こずえさんは、かつて乳がんと闘っていた「がんサバイバー」であることから、ご自身の経験を中心にお話を伺ってきました。
がんの告知を受けた日「どう帰ったか覚えてない」
ーー河野さんが、がんだと発覚するまでの経緯を教えてください。
河野:実は、がんが発覚する5年前から胸の痛みは感じていました。でも、検査するのは怖いから「乳腺症だろう」と良い方向に考えて、放っておいたんです。
しかし、あまりにも痛みが続くのでようやく2003年の11月に乳腺外来のある病院を受診しました。そこでがんの告知を受けたんです。
ーー告知を受けた時、どのように受け止めましたか?
河野:やっぱり(がんだったんだ)…という気持ちと、恐怖が強かったですね。その日は、血液検査も断ってしまいました。5年も放置してしまったから、「もうダメだな」という気持ちでした。
あまりのショックに貧血で倒れてしまって、その日は病院からどう帰ったのかも覚えていません。
抗がん剤、脱毛…「何を着ても楽しくない」
元々ファッション誌のエディターとして活躍していた河野さんは、がんが発覚した頃には独立してご主人と編集プロダクションを運営していました。
自身の経験を生かし活躍していた矢先のがん告知…河野さんはショックで仕事が手につかなくなり、抱えていた仕事も断って治療の生活に入ったのです。
ーー抗がん剤の治療はかなり辛いと聞きますが、河野さんの場合はどうでした?
河野:1回目の投与は何事もなく終わりましたが、回を重ねるごとに体が辛くなってしまいました。最終的には3か月くらい寝たきりの状態でした。
それから髪の毛は、抗がん剤投与から2週間くらい経ったころから抜け始めました。最初は頭頂部から抜けていって、もみあげや襟足は残った状態でしたが、週1ペースで脱毛力の強い抗がん剤の投与が始まると髪の毛、眉毛、まつ毛、鼻毛、わき毛…全身の毛が抜けたんです。
それで毛が抜けはじめたころからウィッグを探したんですが、思うようなデザインのものがありませんでした。がんになる前の自分とは程遠く、何を着ても楽しく思えずにいました。
この経験から、髪の毛が抜ける前の自分を再現できるウィッグが欲しいと思ったんです。
ウィッグ(ヘアエピテーゼ)ができるまで
日本ヘアエピテーゼ協会の医療用ウィッグは、「再現美容」というコンセプトの元に作られています。再現美容とは、髪の毛が抜ける前の自分を再現し、かつ美しく見せる技術のこと。
まずはウィッグができるまでの工程をご覧ください。
1. ウィッグを頭に合わせる
こちらが何も手を加えていない状態のウィッグ。頭に合わせて、長さや大きさ、髪のボリュームについて綿密に打ち合わせをしていきます。
2. 希望のヘアスタイルにカットする
サイズとヘアスタイルを決めたら美容師さんと相談しながら、ウィッグのカットやセットをして仕上げてもらいます。
脱毛が始まる前にウィッグを作った場合は、毛が抜けていくにつれてサイズが合わなくなることもあるので、状況に応じて調整が必要になります。
カットやセットをするのは、「再現美容師」の資格を持った美容師さんなので、一般的な美容師さんには話しづらいこともお任せできるそうです。日本ヘアエピテーゼ協会では、この再現美容師の学校も運営しています。
どちらが使用前かわからないほどの再現性
実際に日本ヘアエピテーゼ協会のウィッグを、使用する前と後の写真をご紹介しましょう。
こちらが使用前の写真。
そしてこちらがウィッグを使用した写真(製作:銀座/本八幡店アンジェリーク)。
地毛にしか見えない仕上がりに、編集部も驚きました。
他のウィッグとの違いは?
ウィッグというと、人形のような髪の毛をイメージしがちですが、日本ヘアエピテーゼ協会のウィッグは、人毛と熱による形状記憶ができる人工毛を混ぜたものを使用しています。なんと、1本1本職人さんが手作業で植毛しているとのこと。
この繊細な作業が、本物に近い仕上がりの原点なのです。
毛先のハネもとっても自然。巻き髪が好きな場合は、コテでのスタイリングも可能です。
こちらがウィッグの頭頂部。つむじを間近で見ても、言われなければウィッグとは気づかないほど自然でした。
そして、どの位置からでも分け目がつけられるように作られているので、様々なスタイリングが楽しめるようになっています。
うら返すとこんな感じ。肌色の裏地を採用することでリアルな仕上がりを実現しているそうです。
また、3Dのストレッチ素材を使っているので、インナーキャップを使わずにそのままかぶることができる仕様になっています。
実際に触ってみた
とても軽いのはもちろんのこと、手触りが本物の髪の毛のようでした。
気になる費用は、オーダーからアフターケアまですべて込みで12万円(税別)とのこと。
同品質のウィッグは、20万円から30万円かかるのですが、日本ヘアエピテーゼ協会では広告費をかけていないため、他社よりも低コストでの提供を実現しているそうです。
実は河野さんも…
河野:実は、私も部分用ウィッグを使っているんですよ。トップの部分のハーフウィッグなんですけど。
ーーええ!?全然わかりませんでした。
河野:全体用のウィッグと同じ素材でできているんです。私は、最近までホルモン療法をしていて、副作用で頭頂部のボリュームが足りないので使っています。
抗がん剤治療を終えて自毛デビューしたいと思っても、髪質が変わってしまった方や、部分的に髪が薄くなってしまう方もいらっしゃるんです。ですから、全体用ウィッグから部分用ウィッグに移行することも多いんです。
お客様からのニーズもありましたし、私も欲しかったので作ってもらいました。
ウィッグが気持ちを前向きにさせる
ーー髪の毛が抜けてしまう辛さは計り知れませんが、ウィッグをつけることで前向きになれる、おしゃれを楽しむきっかけになっているのではないでしょうか。
河野:そうですね、前向きになれますよね。やっぱり当事者の方はとてもナーバスな状態だと思うんです。理由はいくつかあって、1つは病気や生活に対する不安を抱えている。もう1つは女性としての自信を失ってしまっている。それは、髪の毛が抜けてしまうことだけじゃなく、手術の傷あとが原因になっていることもあります。
それから、治療中は今までできていたことができなくなってしまうことが多いんです。家事や育児、仕事など、思うようにできなくなることが自分に対する自信をも失わせてしまいます。
そんな中、自分の髪の毛をウィッグで再現できることは、気持ちを前向きにするきっかけになっているようです。
実際にウィッグをつけたことでお子さんから「元のママだ!」と言ってもらって、喜んでいる方もいらっしゃいました。特に小さいお子さんの場合、お母さんの髪の毛が抜けることに驚いて泣いてしまうこともあるんですよ。
髪以外の美容もバックアップ
先述の通り、抗がん剤治療をすると髪の毛以外の体毛も抜けてしまいます。眉毛やまつ毛も抜けてしまうとなると、治療前にしていたメイクはできません。
では、どんなメイクをすれば良いのか…そんな女性たちの悩みに応えるべく、それぞれの状態に合わせたビューティーレッスンも行われているのです。メイクはもちろんの事、つけまつげのつけ方やネイルも行なっています。
こうしたレッスンは、美容についての知識を得るだけではなく、がんと闘っている同じ境遇の人との交流の場にもなっているそう。
「自分を取り戻して欲しい」
最後に、河野さんにお客様への思いを伺いました。
ーーウィッグを作りにいらっしゃるお客様に対して、どんなことを心がけていますか?
河野:私たちがお客様に対して心がけていることは、できる限り心に寄り添って差し上げることです。家族に心配をかけたくないという気持ちから、不安な気持ちを吐き出せない方もいらっしゃいます。
ですから、私たちが「心を許せる場所」になることで、少しでも気持ちを軽くして差し上げたいです。
ーー最後に、今もがんと闘っている方やそのご家族にメッセージをお願いします。
河野:かつて私がそうであったように、お客様の中で「自分を取り戻したい」と考える人は多いと思います。自分らしく生きたいと思うことに、病気は関係ありません。
私たちのウィッグで脱毛する前のご自分を取り戻し、お客様が前向きになるきっかけになればと思います。
自身の経験からウィッグを発案し、今ではがんと闘う人のために活動する河野さんのメッセージは、経験者ならではの重みと愛に溢れていました。
自治体によっては、こうした医療用ウィッグの購入費用に助成金が出る場合もあるので、必要とされている方がいらっしゃいましたら参考にしてみてください。